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東京高等裁判所 昭和28年(う)2068号 判決

被告人 柴田鐐三

〔抄 録〕

論旨第一、第二に対して。

公益事業令はその当初の制定形式においてはポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件(昭和二〇年勅令第五四二号)に基き制定された政令であつて、占領下の一時的特殊事態に対処する為の法規であるかの外観を呈しているのであるが、その故に直ちに同令が所論の様に一時的特殊事態に対処して制定されたものと即断するを得ないのであつて、同令が所謂限時法であるか否かは同令の性格内容は勿論それが制定された経緯或は失効するに至つた事情等を検討して決しなければならない。そこでこれ等の点について審按するに、公益事業令はその第一条に電気及びガスの料金を適正にし、その供給を豊富且円滑にし並びに電気事業及びガス事業の運営を調整することによつて電気及びガスの使用者の利益を確保するとともに電気事業及びガス事業の健全な発達を図り、もつて公共の福祉を増進することを目的とする旨を定め、以下右目的を達成するに必要な諸規定を設け、その附則において電気事業法(昭和六年法律第六一号)及び瓦斯事業法(大正一二年法律第四六号)を廃止することを定めており、仔細にその規定の内容を検討すると全く従来の右両事業に関する廃止法律にかわる恒久法規である。而して公益事業令の制定及び失効の経緯は、同令と殆んど同一内容の公益事業法案が前記電気事業法及び瓦斯事業法にかわる恒久立法として第七国会に提出されたが審議未了となつたところ、第九国会の会期中である昭和二五年一一月二四日占領軍当局の示唆により突如として同年政令第三四三号公益事業令(右公益事業法案と殆んど同一のもの)が公布され同年一二月一五日から施行となり、同時にその附則により前記電気及び瓦斯事業に関する二法律が廃止されたのである。而して第一三国会において制定された昭和二七年法律第八一号が昭和二〇年勅令第五四二号を「日本国との平和条約」発効と同時に廃止すると共に同勅令に基いて発せられた命令は別に法律で廃止又は存続に関する措置がなされない場合には同法施行の日(昭和二七年四月二八日)から起算して一八〇日間(一〇月二四日まで)に限り法律として効力を有することと定めたので、政府は公益事業令を法律としてなお存続させるため同国会(第一三国会)に「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に基く公益事業委員会関係諸法令の措置に関する法律案」を提出したが可決に至らず次国会に継続審議の決定を見たが、第一四国会の解散に伴い廃案となり、ここに公益事業令は昭和二七年一〇月二四日の経過と共に失効するに至つたのであり、その後一五国会で可決された電気及びガス臨時措置に関する法律(昭和二七年法律第三四一号)が同年一二月二七日公布即日施行され、これによりさきに失効した公益事業令が当分の間再び法律として効力を有することになつたのである。以上のことを綜合するときは公益事業令はポツダム政令の形式をもつてはいるが、実質的には恒久法規であつて、決して占領という一時の異常事態乃至は臨時的必要に対処する為に制定された暫行的法令ということを得ない。従つて同令は、その性質上、予めその効力を延長させる法的措置がなされないで占領終結と同時に当然失効し、しかもこれにかわる法律の制定もなく、爾後電気事業及びガス事業については公益及び私益を保護し公共の福祉を図るための法規を欠くままに放置されるべきものとは到底考えられないのであるから、同令が占領終結により当然失効するものと考え、その失効を予期して同令違反の所為に出で或は右失効による免責を目的とする訴訟遅延を企図する虞は毫も存しないのであつて、同令を限時法と解すべき実質的根拠がない。昭和二七年法律第八一号は同法施行の日から起算して一八〇日に限り公益事業令に法律としての効力を与える旨を定めているが、同規定の趣旨及び前記公益事業令が失効した前後の事情に照すときは、右一八〇日の期間は同令を廃止するか存続させるかの措置を講ずる準備期間として定められたもので、右期間の経過によつて当然に同令が効力を消滅することを予め定めたもの即ち罰則の有効期間を明定したものではないと解するのが相当である。仮に予め罰則の有効期限を明定する趣旨を含むものとするも、このことが同法施行前である占領期間中の公益事業令にも限時法としての性格を付与するものということはできない。

また公益事業令が前記の様に失効する前にこれを引続き法律として効力を有せしめる法律案が第一三国会に提出審議されたこと及びその失効後昭和二七年法律第三四一号が制定施行されたことに鑑みるときは、同令違反行為に対する国家の法律的評価乃至は法律感情には何等変更のないことは所論の通りであるが、それだからと言つて直ちに同令を限時法であると解し他に明文の規定をまたないで本件占領中の同令違反行為をその失効後においても処罰することを得るものと断ずることはできない。公益事業令は前記の通り昭和二七年一〇月二四日限り失効したのであるが、その後においてもなお失効前の違反行為を処罰する旨の明文の規定を欠いている。その他原判決詳記の様に公益事業令を限時法と解して同令失効前の占領期間中の本件違反行為について失効後もなお罰則の適用を許すべき何等の根拠を見出すことができない。原判決には所論の様な法令解釈の誤りは存しない。論旨は理由がない。

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